トントン

「ちょっと、彩音……?」

 あたしの行動に美咲が何か感づいたのを無視して、こっちを向いてくれてないゆめの肩をたたく。

「……………」

 トントントン。

 一回でこっちを向いてくれないゆめにもう一回肩をたたくと

「……だから、彩音のチョコ、なんて……」

 油断してこっちを向いたゆめに

「ん……むっ!?」

「っ!!!!」

 口づけをした。

 正確にはチョコをゆめの口に持って行った。

「ん……ぁ、ちゅぷ」

 驚いて離れようとするゆめだけど、あたしは肩を抱いて引き寄せてゆめを逃がさないようにして舌でチョコをゆめの口の中に押し込む。

「ん……ぷぁ……」

 舌先がゆめの舌にほんのちょっと触れるとあたしは体を離して、にんまりと笑いを浮かべた。

「ふふふ、これでゆめはあたしのチョコ食べたよね」

 なんか自分で言っててすごい馬鹿みたいだなって思わないでもないんだけど、ちょっと無理やりにでもしないとあたしのチョコもらってくれそうになかったし、まぁいいよね。

「と、いうわけでゆめのチョコ頂戴」

 なんだかんだ言ってもゆめはあたしのこと大好きなわけだし、もらっちゃったらお返しをくれないわけないよね。うん。なんか無理やり自分を納得させてるような気もするけど……事実なはずだからいいよね。

「………………私、から?」

 キス……じゃない口移しを終えたゆめは反射的には怒るかと思ったけど、そんなこともなくちょっぴり頬を染めてそう言ってきた。

「ん? そうそう、ゆめの」

 からっていう言い方は微妙に気になるけど、ゆめがその気になったっぽいから余計な突っ込みは入れないでおく。

「…………………………」

(?)

 ゆめはなぜか徐々に顔を赤くしていってその場に固まる。

(よくわかんないけど、これは……)

 だめ、かな。

 ゆめってなんかするときにあんまり悩んだりはしない。動き出さないってことはくれないってことかな。

(しょーがないや、もう一回平謝りして………)

 なんて、ほとんどゆめばかりに思考を奪われたあたしはこの部屋にいるもう一人のことなんてすっかり忘れてて

「彩音」

「ん?」

 背後からの声に反射的に振り返ったあたしは

「んぐっ!?」

 いきなり唇を奪われた。

 ボフン。

 しかもベッドに押し倒されながら。

(……な、なに………あ、まい……)

 何事かと思うのと同時にそれを感じる。

「ん、んん、ううむ、ちゅぱ」

 それから口の中を舐られる感覚。昔は死ぬほど恥ずかしかったのに、今は慣れてるって言っていいほどの感覚。

 美咲に、一方的なキスをされるときの感覚。

「ん、くぅ…ん、くちゅ、ちゅぱ」

 チュク、くちゃちゅぷ。

 美咲と重ねる唇から艶めかしい音が漏れる。

 突然のことに抵抗しようとは思ったけど、美咲に完全に押さえつけられベッドにくぎ付けになったまま。

「ん、れろ、んぅ……ぺろ」

 二人の熱さでチョコが溶けてきて、美咲はそれを押し付けるように舌と舌を合わせてこすってきた。

「レロ、むちゅ……ちゅ。ゅ……うぅん」

 あたしはいつのまにか抵抗する気もなくして美咲にされるがままにされた。

「……っん……ふぅ」

 しばらくすると美咲がキスを終えて、満足そうな笑いを浮かべた。

「ん……」

 それから二人ので濡れた唇をペロっとなめあげる。

「……はぁ……はぁ」

 あたしはそれをあおむけのままぼーっとしながら眺め……

「って、な、何すんのよ!」

 ようやく体を起こしてそれを言えた。

「チョコをあげただけじゃない。浮気した相手にあげるのよ。感謝してもらいたいわね」

 さっきは満足そうだったのに、いきなり鼻につくような言い方になった。

「だから、あれは………じゃなくて! な、なんで口移しなんかすんの!」

「今さっきゆめにしてたじゃないの。それとも、ゆめとはできて私とは嫌なのかしら?」

「そういうこと聞いてんじゃ………いや、嫌なわけはないけど…………ど、どうして口移しなのよ」

「彩音がさっき食べされてくれたじゃないの。そのお返しをあげただけよ」

 な、なんか美咲はあくまでこれが当たり前っていう言い方。あまりの自信? の前にあたしのほうが変なこと言ってるんじゃって思わせるほどだ。

「………彩音」

 そんなあたしをゆめがあたしの服をクイクイと軽く引っ張りながら呼んだ。

「ん?」

 あたしがなんだろとゆめに顔を向けると

(へ?)

 パクって小さな口にチョコをくわえたゆめが上目使いのまま迫ってきて……

「ん………」

 またも唇を奪われた。

「ん……ぁ……ちゅ」

 あたしの服をギュって掴んで体を伸ばしながらの口移し。というかキス。

「んん……ふぁ……くぴゅ……んっ」

 美咲と違って激しくはないし、あたしがしたのとも全然違う。なんか一生懸命さを感じさせる口づけ。

 唇が触れ合うのも、熱い舌と舌が絡まるのも、二人の中で溶けていくチョコも、すごく心地よくて……あたしはなんでゆめにまで唇を奪われているかっていう疑問よりも手の中にあるゆめを優しく抱きしめた。

「ふぁ……あ」

 名残惜しそうに唇を離したゆめは潤んだ瞳であたしを見つめる。

「はぁ……は」

 あたしはあたしで三度目のあま〜いキスにさすがに頭がぼーっとしてくる。

「って、ちょ、ちょっと、ゆめ、までど、どうしたの」

 それでもいつもと違う二人にたじたじなあたしはそれを聞くことができた。

「……………チョコ、あげた、だけ」

 そして、美咲とほとんど同じ返答をされた。

「……さっき、彩音がして欲しいって言った」

「へ?」

 言ったっけ? ゆめから頂戴とは言ったけど、こんなことしてほしいとは言ってないと思うけど。

(あ……)

 と、その時を振り返ったあたしはゆめが妙な言い方をしてたのを思い出す。

 チョコを頂戴って言ったとき、ゆめは「……私、から」と言っていた。あれは口移しでっていうことだったらしい。

「……今度は……彩音の番」

「ば、番って?」

「……今度は彩音から食べさせる」

「え? いや、それは……」

 さっきゆめにしたのはあくまで食べてくれないゆめへの緊急措置だったわけで……この流れに乗せられたら全部そんな風になっちゃう気がするし……

「あら? だめよ、ゆめ」

 妙に穏やかな声を出す美咲はなぜかあたしの口に指でチョコを押し込むと

「今度は私の番なんだから」

 と、ゆめと同じ不吉………でもないけど、穏やかではないことを言ってきた。

「ちょ、ちょっと何いってんの!」

 流れには乗らず、チョコを手に移してあたしは美咲に食ってかかった。

「当然でしょう? 私だけ彩音に食べさせてもらってないんだから」

「い、いや美咲にはあげたじゃん」

 ちゃんとあ〜んってしたでしょ。

「あぁ、そうね。で?」

「で? って……」

「今度は私の番って言ってるんだけど聞こえないの?」

「っう………」

 こういう時の美咲はやばい。何を言っても百パーセント反論してくる。そして、こういう時にあらがう術をあたしは知らなくて……

 

 

「……はぁ……はぁ……はぁ」

 もう日が沈んでいる。

「……つ、疲れた………」

 ようやくすべてを終えたあたしたちは夕日に染まるベッドで三人そろって眠るのだった。

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